大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和43年(ワ)1490号 判決

原告

中川寛三

被告

合資会社伏健商店

ほか一名

主文

被告らは各自原告に対し金一、二〇三、八三二円および内金一、一〇三、八三二円に対する昭和四三年二月二三日以降支払い済みに至るまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。

原告の被告らに対するその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを四分し、その三を原告の、その余を被告らの、各負担とする。

この判決は、原告勝訴の部分に限り、かりに執行することができる。

事実

第一、請求の趣旨

一、被告らは各自原告に対し四、三五三七四〇円および内金四、一一三、七四〇円に対する昭和四三年二月二三日以降支払済みに至るまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。

二、訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決および仮執行の宣言を求める。

第二、請求の趣旨に対する各被告の答弁

一、原告の請求を棄却する。

二、訴訟費用は原告の負担とする。

との判決を求める。

第三、請求の原因

一、(事故の発生)

原告は、次の交通事故によつて傷害を受けた。

(一)  発生時 昭和四〇年二月一五日午後八時一五分頃

(二)  発生地 東京都港区青山南町三丁目六二番地先路上

(三)  加害車 小型四輪貨物ライトバン(品四に四四二九号以下甲車という。)

運転者 被告深井勲(以下深井という)

(四)  被害車 コンテツサ九〇〇cc乗用車(以下乙車という)

運転者 原告

被害者 原告

(五)  態様 乙車が停車中甲車が追突した。

(六)  原告はこのため頸椎変形性脊椎症の傷害を受けた。

(七)  原告は現在通院加療継続中であるが後遺症として肩こり手のしびれ感が残存すると予想される。

二、被告らはそれぞれ次の理由により原告の損害を賠償すべき義務がある。

(一)  被告合資会社伏健商店(以下被告会社という)は甲車を所有し自己のために運行の用に供していたものであるから自賠法第三条の責任。

(二)  被告深井は本件事故につき次の過失があるから民法七〇九条による責任。

被告深井は事故直前ラジオのダイヤルをまわしながら運転して進路前方を十分注視する義務を怠つた過失。

三、原告が本件事故により因つた損害の明細は次のとおりである。

総計 一六、二七二、四九一円に達する。

(一)  物質的損害

イ 日本超音波温泉株式会社に支払つた入浴代 八、七〇〇円

ロ 三栄薬品から購入するハリ薬代 一九七、五二〇円

ハ 慈恵医大通院往復交通費(但し昭和四三年九月二日迄の分) 六一、三二〇円(一回当り四二〇円の一四六回分)

ニ 慈恵医大に支払つた治療費中自己負担分 四、七六〇円

ホ 人件費中既支出分(原告は不動産仲介業を営む関係上顧客を随時仲介物件所在地に自動車で案内する必要がある。処が甲第一号証ないし甲第三号証記載の症状を呈するためみづから車を運転することが困難なため運転手を特に雇傭し原告の労働能力低下を補う必要が存した。原告が昭和四三年九月迄に叙上の必要上既に支出した人件費の明細は次のとおりである。)

支出年月日

支出金額

支払先

備考

昭和四一、一二、三〇から

昭和四二、四、二八まで

五ヶ月間

一六五、〇〇〇

(一ヶ月当り三三、〇〇〇)

加藤正人

給料として支給

昭和四二、五、三一から

昭和四二、九、三〇まで

五ヶ月間

一八〇、〇〇〇

(一ヶ月当り三六、〇〇〇)

昭和四二、七、一三

四四、〇〇〇

賞与として支給

昭和四二、一〇、三一

二五、二〇〇

給料として支給

昭和四二、一一、三〇

三五、一〇〇

昭和四二、一二、三〇

二八、六〇〇

昭和四二、一二、二三

四〇、〇〇〇

賞与として支給

昭和四一年一二月から

昭和四二年一二月まで

一三ヶ月間

三〇、五五〇

加藤正人

交通費として毎月二、三五〇支給

小計

五四七、九〇〇

昭和四三、三、三〇

二二、五〇〇

伴宏一郎

給料として支給

昭和四三、四、〃

四八、〇〇〇

〃〃五、〃

四五、〇〇〇

〃〃六、〃

三〇、〇〇〇

〃〃七、〃

五三、〇〇〇

〃〃八、〃

五五、〇〇〇

〃〃九、〃

四〇、〇〇〇

昭和四二、三から

昭和四三、九まで

六ヶ月間

七、五六〇

交通費として毎月一、二六〇支給

小計

三〇一、〇六〇

総合計八四八、九六〇円

ヘ 人件費中今後支出を予定されるもの(原告は現在尚通院加療継続中であるが肩こり手のしびれ感は後遺症として残存するものと予想せられる。従つて今後共運転手を雇傭し労働能力低下を補う必要があるが原告は昭和一四年三月二三日生で昭和四三年九月二三日現在満二八才六ヶ月であり政府の自動車損害賠償保障事業損害査定基準による就労可能年数は三五年である。この間運転手雇傭のために毎月平均金五三〇八六円(伴宏一郎に支給した過去三ヶ月分の平均給料に交通費加算)の支出を余儀なくされる。そこでホフマン法により法定利率年五分の中間利息を差引き現在価格を算出する。)

五三〇八六×二四二・四六=一二、八七一、二三一円

(二)  精神的損害

イ 昭和四〇年二月一五日の受傷後少なくとも通院加療を要すると予想される昭和四三年十二月末までの間の慰藉料 金一三八万円

ロ 後遺障害に対する慰藉料 金九〇万円

(三)  原告は本訴において右一六、二七二、四九一円の内金として四、〇七三、七四〇円を請求する。

(四)  弁護士費用

以上により、原告は四、〇七三、七四〇円を被告らに対し請求するものであるところ、被告らはその任意の弁済に応じないので、原告は弁護士たる本件原告訴訟代理人にその取立てを委任し、東京弁護士会所定の報酬を参しやくして原告は四〇、〇〇〇円を、手数料として支払つたほか、成功報酬として原告は二四〇、〇〇〇円を第一審判決言渡日に支払うことを約した。

四、(結論)

よつて、被告らに対し、原告は金四、三五三、七四〇円および内金四、一一三、七四〇円に対する訴状送達の日の翌日である昭和四三年二月二三日以後支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

第四、被告会社の事実主張

一、(請求原因に対する認否)

第一項は不知。甲車の追突と原告の傷害の因果関係がない。

第二項中甲車が被告会社の所有であつたことは認める。甲車を被告会社のための運行によつて本件事故が発生したことは否認。

第三項は不知。

二、(抗弁)

(一)  本件事故は被告会社のための運行によつて生じた事故でないから被告会社は責任がない。被告会社と被告深井と何らの関係もなく、被告深井に甲車運行させたこともない。

(二)  免責事故の態様は被告深井主張のとおりであつて、被告深井には運転上の過失はなく、事故発生はひとえに被害者原告の過失によるものである。従つて被告会社は責任はない。

第五、被告深井の事実主張

一、(請求原因に対する認否)

第一項中(一)ないし(五)は認める。(六)は知らない。(七)は否認する。

第二項中(一)は不知。(二)は否認。

第三項は不知。

二、(事故態様に関する主張)

事故当時被告深井は乙車の後方約七米の間隔を置いて約四〇粁の速度で甲車を運転していたが、原告車が法令に違反して前方ライトを上向きにしたまま疾走していたため前方より来た麻布警察署パトカー警視一六二号に制止を受け急停車し乙車の後方赤ランプがついたため、被告深井は即座に甲車の急ブレーキを踏んだが間に合わず乙車に追突したものである。従つて被告深井には運転上の過失はなく、事故発生は原告の過失によるものである。

第六、証拠関係〔略〕

理由

一、請求原因第一項(一)ないし(五)の事実は原告と被告深井の間において争いがなく、右事実は被告深井、原告各本人尋問の結果により認めることができる。〔証拠略〕によれば、原告は本件事故により外傷性頸性変形性脊椎症の傷害を負つたことが認められる。

二、被告会社の運行供用者責任について判断する。甲車が被告会社の所有であることは原告と被告会社間において争いがない。従つて甲車の運行支配・運行利益の喪失の事実につき被告会社において主張、立証すべきところ、右喪失事業についてこれを認めるに足る証拠がなく、かえつて、〔証拠略〕によれば、訴外足立は事故当時被告会社の運転手として勤務し甲車の運転の業務をしていたほか自分でも蒲鉾販売の仕事をしていた。被告深井はかつて被告会社に一年位勤めたことがあつたが昭和三九年八月退め、その後は訴外足立個人の仕事を手伝つていたが、足立から頼まれ甲車を車庫に入れる仕事を手伝うこともあつた。本件事故当日午後八時頃訴外足立は被告会社の仕事終了後、被告深井に甲車を車庫に入れることを頼み、被告深井はこれを了承して、車庫に入れる前にガソリンスタンドに立寄り給油するため甲車を運転中本件事故を惹起したことが認められ、右事実によれば被告会社は甲車を自己のため運行の用に供していたことが十分認められる。

三、〔証拠略〕によれば次の事実が認められる。

被告深井は甲車を運転し時速約四〇粁で、乙車の後方から約七~一〇米位車間距離を置いて追従していたところ、ラジオのダイヤルの方に気をとられていたため、乙車が減速し停車したのに、そのことに気付くのが遅れ、ブレーキをふんだが及ばず乙車の後部に甲車前部を追突させた。原告は乙車を時速約四〇粁で運転中、対向して来たパトカーに乙車の前照灯が上向きであつたことで、注意されたので、停車し、ドアに手をかけ身体を浮かしたところ後方から来た甲車に追突された。

右事実によれば被告深井には前車がいつ停車してもよい程度の車間距離を保たず、かつ前方を注視していなかつた過失があることが明らかである。一方原告にも前照灯の点燈方法に違反があつたのでパトカーに注意されるという運転上の過失があり、このことが本件事故の発生の一因となつていることは否めないのであり、被告深井と原告の過失の割合は被告深井九対原告一と認めるを相当とする。

四、(一) 〔証拠略〕によれば、原告は本件事故による前認定の傷害のため昭和四〇年二月一五日より同月二四日まで河嶋内科医院に通院し、一応快方に向つたため通院を中止していたが、昭和四〇年七月頃本件事故による頸椎捻挫のため首の痛みが烈しくなり、前記河嶋内科に一週間位通院し同病院の紹介で青山外科に行つたがよくならず同月一四日から一週間名倉堂に通院し、その後昭和四一年四月四日から同年五月二八日まで東京中央診療所に通院し、同年一一月一二日以降東京慈恵会医科大学附属病院に通院し、昭和四四年四月一六日まで実日数一五五日に及び、なお治療中であり、この間治療のため日本超音波温泉に通つたこと。現在、なお頭痛、両手尖部の知覚異常が残つていること、この間慈恵大病院の治療費として原告が本訴で請求する四、七六〇円を超える金員を払い、日本超音波温泉株式会社に八、七〇〇円支払い、はり薬等の薬品代として三栄薬品に、原告が本訴で請求する一九七、五二〇円を超える金員を支払つたことが認められる。通院交通院の請求については、通院期間中すべてタクシーによつたことを認めるに足る証拠もなく、かつ原告の症状からみてもタクシーによる必要性が認められないのであり、従つて右慈恵会大学病院と原告の勤務する株式会社アツセンの距離等からみて一回の通院に要する交通費は一〇〇円程度とみるを相当とするので、右一五五回の通院につき合計一五、五〇〇円と認める。

(二) 原告は本件事故による受傷のため自動車運転ができなくなり運転手を雇つたため原告自身が人件費として八四八、九六〇円を支払つた旨の請求をするけれども、これを認めるに足る証拠はなく、かえつて、〔証拠略〕によれば、原告は昭和三九年一〇月頃設立された株式会社アツセンの代表取締役であり、訴外加藤正人、伴宏一郎、渡辺昭夫等はすべて右会社において雇い入れ給料を支払つたものであり、原告において給料の支払をなしていないものと認められる。従つて、訴外株式会社アツセンの支出の人件費を原告において賠償請求することはできない。

さらに、原告は将来支出を予定される人件費として一二、八七一、二三一円の請求をするけれども、これを認めるに足る証拠はなく、かえつて、〔証拠略〕によれば、今後支出される人件費はすべて訴外株式会社アツセンにおいてなされるものであり、原告自身訴外会社設立のころから本件事故当時は右会社より給与として月額四〇、〇〇〇円を得ていたが、その後徐々に上昇し現在月一二〇、〇〇〇円程度の給与を得ていることが認められ、従つて、原告自身には将来の人件費の支出はもちろん、逸失利益の喪失の損害はないものと認められる。

よつて、原告の物質的損害は右(一)の合計二二六、四八〇円となるところ、前認定の本件事故についての原告の過失を斟酌すれば二〇三、八三二円となる。

五、前認定の本件事故の態様、原告の傷害の程度、通院期間、後遺症の程度、および原告の過失を斟酌し、原告の受くべき慰藉料は九〇〇、〇〇〇円をもつて相当とする。

六、以上により原告は被告らに対し一、一〇三、八三二円の損害賠償請求権を有するところ、原告は本件訴訟代理人に訴訟提起を委任したこと本件記録上明らかであるが、これに要する弁護士費用のうち被告らに賠償を求めることができるのは一〇〇、〇〇〇円を相当とする。

七、よつて、原告の被告らに対する本訴請求のうち各自一、二〇三、八三二円および内金一、一〇三、八三二円に対する訴状送達の日の翌日であること記録上明らかな昭和四三年二月二三日から支払済にいたるまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める部分は正当として認容し、その余は失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九一条、第九二条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 荒井真治)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例